ハバナ日記(2)

 2月2日。涼しい朝。Alamarの民泊のご夫婦は、ちんみたいな犬を3匹飼っている。家の外にも黒い犬がいて、あれもお父さんの犬?と聞くと、あれは違う、知らない犬だと言う。犬が多い。団地の壁の色はカラフルなパステルカラー。団地のまわりはゴミだらけ。どこかから音楽がきこえる。シャワーを浴びてバスに乗って、ハバナの旧市街へ。Alamarから旧市街まで、車でゆうに30分くらいかかる。

 旧市街のカテドラル広場に面した〈詩の家〉に向かう途中、メキシコから来た高校生の団体と出会う。彼らも若手作家ミーティングの参加者なのだ。若いというより、子どもたちに見える。引率の先生とケティが話しはじめ、アダは「おなか空いたよ〜、だから団体行動は嫌いだよ〜」と言ってひいている。私も彼らとついつい自己紹介しあいっこを始めてしまい、気がつくとアダとケティは広場の反対側にある猫の看板のカフェに入るところだった。トーストとコーヒーで朝ごはん。猫が寄ってきて、じーと見る。

 〈詩の家〉ではミーティングのプログラムがどんどん始まって、思ったよりパンクチュアルだ。休憩時間に、アルゼンチンから来た雑誌編集者で作家のエミリオと、その彼女で日系の女の子、パウラに出会う。日本語であいさつ。アダの風邪が悪くなる一方なので、ケティはお医者さんの友達を呼ぶと言って、アダを別の人に任せて、私をハバナ観光へ連れ出してくれた。旧市街のそこらじゅうに音楽が溢れていて、あっちを見てもこっちを見ても踊っている人や歌っている人や楽器を鳴らしている人がいる。音楽音痴のニッポン人の私でさえ、リズムにあわせて揺れだしたくなる。がまんしながら歩く。有名なヘミングウェイのバーを覗くだけ覗いて、写真を撮る。どんどん歩いていって、銀行でおかねをCUCに換金(昨日の空港ではすっかり忘れてた)。ケティの行きつけのパスタ屋さんで、遅めのランチ、トマトパスタ。そこからまた少し歩いて、ジャングルみたいに迫力のある緑に彩られた庭園に入っていくとそこは出版社の敷地で、ケティの女上司が、何人かの著者?や出版関係者?と午後のお喋り?をしていて、ケティはその女上司から、現金でお給料らしきものを受け取っている。同じ庭園に、エッセイストのおじさんや、彼女連れの編集者のラファエル・グリーリョがいて(なんて敏腕編集者っぽい名前!)、ケティは彼らにいちいち私のことを紹介してくれた。ラファエルはすでに私の詩を読んでくれていた。さくさくした、実務処理能力に長けた、有能そうな、私の昔のボスみたいな感じの人。ラファエルとその彼女と、ケティと4人で、ハイネケンの缶ビールで乾杯。

 そのあと、ホテル・カプリの斜め向かいにあるエキスポ会場の入口で、ケティはまた別の友達と待ちあわせた(カプリはアレナスの「エバ、怒って」に出てくる)。その友達はNといって、ほとんどアルコール中毒といって差し支えないほどビールが大好きな女性だった。ケティと同じ大学を出ていて、英語はぺらぺら、昼間は観光客のためのお土産市場でものを売っている。私が写真を撮ろうとすると、写真撮られるのとSNSにあげられるの嫌いなんで、やめてねと言う。はっきりしていてかっこいい。テラス席でビールを飲んでいると風がどんどん強くなって、雨も混じってきた。ケティが、あそこにウィリアム・ビバンコがいる、と言って声をかけに行った。その人は、ハバナで活躍している有名なミュージシャンだった。ケティがビバンコに「私はあなたの大ファンで、今日は日本から詩人が来てる」というようなことを(多分)言って彼を自分たちの席に招いたので、私は自分の詩をスペイン語で朗読したり、いくつかの日本語を彼に教えたりすることになった。ビバンコも自分の話をした。今回が私の初めてのキューバで、今日は私のハバナの初日なんだと言うと、ビバンコはわーお!という感じで子どもみたいに喜んでくれて、月曜日に近くのバーでやるライブに招待するよと言う。ライブに招待? 初日から展開早すぎませんかねハバナさん。ビバンコはいかにも有名人らしく、会場の隅でテレビの取材を受けて、あっちやこっちへ挨拶したり、握手したりと動き回っていたけれど、いつのまにかどこかへ行ってしまった。ステージではキューバ音楽の野外フェスが繰り広げられていた。フェスの会場の後ろのほうで踊った。ケティはビバンコが近くにくるたびにダンスをせがんだので、3回目で断られていた。だけどふたりが最初に踊ったダンスの巧みだったこと! 南国に生息する鳥の求愛のダンスを見てるみたいで、ほんとうにほれぼれしちゃった。フェスがはけて会場が閉まるまで、女子3人で何杯もビールを飲んだ。路地で乗り合いタクシーを捕まえて、Nも一緒にAlamarへ帰った。

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