大島・よあけ・台風(5)

ライブは、吟ちゃんという歌手のライブだった。細い路地の先にある大きな家の広間に、近所のおじさんたちやお姉さんたちがどんどん集まってきた。「駅」で一緒だった赤いTシャツのお兄さんと女の子のカップルは、吟ちゃんの追っかけをして、大島に来たんだ…

大島・よあけ・台風(4)

裏砂漠は黒くて平らだった。誰もいない、誰もいない。曲がり角にロボットが立っていると思ったら、何かの観測の機械だった。ずーっと向こうの黒い大地のへりからせりあがっている山腹に、白い大きな建物が見える。もしかしてあれが大島温泉ホテルなんじゃな…

休憩:(4)をかきながら考えたこと

昨日・土曜日、うちへ、千葉雅也さんが遊びにきてくれた。カヴァをお土産に持って。 千葉さんの話でおもしろかったのは、物理学は「人間にとっての物理」に関する学問なのでヒューマニズムなんだよ、という話(だったかもしれないし、そんな話ではまったくな…

大島・よあけ・台風(3)

お鉢巡りのコースの入り口にあるお土産屋さんには武田百合子さんみたいな雰囲気の売り子のおばさんがいて、椿の実のキーホルダーを売っていた。しきりに「名前を入れられるんですよ」と言う。店の前に大きい溶岩がごろごろ入った箱を置いて「溶岩サービス」…

大島・よあけ・台風(1)

9月18日、日曜日。 二三時、竹芝桟橋から、さるびあ丸出航。グワシャーン、グワシャーン、という録音のドラの音。 竹芝桟橋の乗船所まで、はじー見送りに来てくれる。 デッキから下を覗きこむと、海の表面は、絵の具の筆洗いの水のような、汚いグレーに見え…

大島・よあけ・台風(2)

9月19日、月曜日。 岡田港から出たバスはトンネルをひとつ抜けて元町港へ向かった。トンネルに入る前、岩場で女の子たちが朝日を見ているのが見えた。わたしは夜明けがとてもきれいだったことや、もう猫を見たことを、興奮したままの文体ではじーにメールし…

アメリカの風カフェに吹く

木曜日、アメリカの30代の詩人が来るときいて、わくわくしながら「吹きわたる風、アメリカの風」という朗読イベントへ出かけた。麻布にある、スイッチ・パブリッシングのRainy Dayという本屋カフェ。六本木で地下鉄を出て、Googleマップを頼りに20分くらい迷…

ハクビシン・網戸・秋

昨日さ、昨日さ。 夜八時ごろ、夕飯の買いものに出かけたら、近所のマンションの生垣から、ハクビシンの出てくるのをみた。ハクビシンは道を少し先へいって、それからすぐ右へ折れて、マンションと豪邸のあいだの草の生えた空き地の奥へ消えていった。私には…

「移動する必要」

今日から発売の「現代詩手帖」9月号・伊藤比呂美特集に、「移動する必要」という短いエセーを書きました。谷川俊太郎さんがかいた「比呂美さん」という詩や、先日の「伊藤比呂美を大いに語る」会の様子なども読めます。いつになく、表紙がかっこいい号です。…

出来たて歩道

土曜日、夕暮れ方から、ニューポートとタラモアをはしごした。ニューポートで、ななおさかきの「ココペリの足あと」を最初から少し読んだ。タラモアではフィッシュアンドチップスとサーモンのマリネとソーダブレッドとスモークチーズ、食べた。ビールは、キ…

五反田目黒川

水曜日。五反田で仕事が終わって、少しだけ目黒川沿いを歩いて帰った。明るい夜の水に電車の明かりが落ちて流れていくのを見て、よく似た風景を何年も前に市ヶ谷で見たことを思いだす。 夜、タイ風鶏肉バジル炒め、揚げ目玉焼き、寝る前にパピコ(小)。

パピコはすごい

火曜日。真昼に、用事があってタクシーをつかまえたら、初乗り2キロ660円だった。東京の通常価格より60円も安い。黒塗りのぴかぴかの車で、ドアは重くて手動で開ける。後部座席はひろくて、まんなかに飛行機の座席の脇についているような何かのコントローラ…

ひとりで大島

月曜日の夕飯…豚しょうがの炊き込みご飯、冷やしなすのごまソース、聖子さんにもらった万願寺とうがらしの焼き浸し。ご飯となすは、栗原はるみさんのレシピ。夏らしい夕飯。おいしかった。 暑くて思考が止まっている。遅い夏休みは、ひとりで大島へ何日間か…

どこにもいない人

「イリュージョニスト」という映画を観た。観ているあいだ、ずーっと泣いていたような気がする。なぜだかわからなかった。手品師のおじいさんが羊の群れと一緒に小さい船で、山に囲まれた孤島に向かっていく、そういう、それだけのシーン。列車が湖を渡って…

暗闇をつくるひとたち

七月、しちがつ。レイ・ハラカミさんが、亡くなった。エイミー・ワインハウスさんが、亡くなった。かっこいい音楽をつくる人たち、うたを歌う係の人たちが、どんどんいなくなってしまうような気がする。そのひとの音楽は残るのに、どうしてそのことが寂しい…

ジム・オルーク 「ユリイカ」

ハロー、ハロー、聞こえますか? そちらでは あなたたちの空は 清潔で晴れていますか? こちらでは こんな雨のなかでも そよ風の呼吸がわたしに届いています こちらのこの電話に わたしのために残された一日の四分の一 いろんなことがしんと静かであるように…

一度死んだ、かわいい鏡

土曜日、輸入雑貨の店で、鏡を買った。もう何年も鏡ジプシーだった。最近はかんねんして無印のプラスチックの鏡を使っていた(スタンドにもなるそのプラスチックのふたは買ってすぐ壊れた)。こんどの鏡は、鏡面にすこしゆがみがあって、一か所、白い絵の具…

「伊藤比呂美を大いに語る」に出演します

『現代詩文庫・続伊藤比呂美詩集』刊行記念イベント「伊藤比呂美を大いに語る」シンポジウム+リーディング+トーク に、出演します。 朗読をなまで聞いて、初めて凄いと思った、シビレた、仰天したのが、伊藤比呂美さんの声でした(そのときの興奮をわたし…

梅雨明けだった

土曜日は5人で三頭山へ行った。 山はだらだらしたプンプンした不機嫌な夏の緑だった。どの緑もそうでも、とくに下草、下葉の方々が、少し濡れて濃くて、その植物ごとの大きさの最大値という感じになっていて、恐ろしい。腰から下が緑に埋まった気分のまま、…

だめな日のクレー

日曜日はだめな日だった。 金曜の夜、会社のデスクの上にmacbook airを置いて帰ってきてしまったので、土日にやろうと思っていた仕事がほとんどなんにも手につかなかった。この春に買ったmacbook airはとても薄くてA4用紙より小さいので、キーボードの手前に…

「穴熊森林調査隊」

「ユリイカ」7月号・宮沢賢治特集に、ちいさい絵本を寄稿しました。 宮沢賢治という存在は、きっと多くの人にとってそうであるように、私にとっても特別です。この特集に寄稿させていただけることになったとき、嬉しさのために一瞬ふらふらと酔つたやうにな…

「トルタオーディオブック」に出演します

6月12日(日)、ヴァーバル・アート・ユニットTOLTAの新作「トルタオーディオブック」に出演します。 オーディオブックといえば、小学生の頃に持っていた、カセットつきの、英語学習教材。「ポーンという音がしたら、ページをめくってください。それでは、LE…

めでたいと思える感じ

いとこ姉のかおちゃんのケッコンヒローエンに参加しに、名古屋まで行ってきた。昨日(土曜日)、夜六時東京発の東名バスに乗って静岡のみえこ宅まで三時間、着いて食べてお風呂に入って寝て、今日(日曜日)、朝六時に起きて、親族一同の乗りこんだチャータ…

「うるさい動物」

昨日から発売の「現代詩手帖」6月号に、「うるさい動物」という詩を寄稿しました。4月29日に恵比寿公園でおこなわれた Bottle/Exercise/Cypher vol.7 の第一部で朗読した詩です。 現代詩手帖 2011年 06月号 [雑誌]出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2011/05/2…

事故映像

昨晩、DVDで、相米慎二の「ションベンライダー」を観た。こどもが、走行中の自転車から走行中のトラックの荷台に飛び移ったり、燃えている船から綱を伝って逃げたり、木場に浮いた木のうえを駆け回ったり落ちたりまた這い上がったりしながら銃撃戦に巻き込ま…

ピクルス・ピクルス・ルルルルル

日曜日、サイト制作のお礼にこっぺのなっつから食べものをいただいた。みょうがとごぼうのピクルス、グレープフルーツジャム、さらっとしたミルクジャム、それからいちごチョコののっていたりする、かわいいスコーン。打合せのとき「お金はいらないよー」っ…

「静かに狂う夜」それから「穴熊みたいな顔をした夜明け」

土曜日夕方、電車を乗り継ぎ、国分寺にあるGieeというバーへ出かけた。 地下に続く階段を降りていってバーの入り口をはいると、ママであるミワさんが何かフライパンで炒めていて、ハセベタカシさんがエレキベースのセッティングをしていて、長谷川友紀さんが…

鳥取や地震

3月のはじめ、鳥取砂丘へ行った。夕子さんと、はじーと。その次の週に地震が来て、砂丘の記憶は、地震の記憶といっしょになった。 鳥取砂丘へは、夜明けの飛行機に乗って、朝ついた。前の日の雪が残っていて、景色がぴかぴかして、地面が白かった。黄色い砂…

トレースする=折り合いをつける

土曜日、美術家の眞島竜男さんの作品のビデオ上映会をみに、blanClassへ行ってきた。 「北京日記」という作品があって、梅原龍三郎という日本近代美術の有名人が北京に滞在している間にかいた日記を、眞島さんが北京に行って「トレースする」という作品だっ…

大崎清夏+神里雄大 にほんごと英語の朗読会

5月7日、横浜・井土ヶ谷のスペース、blanClassにて、朗読会をします。この朗読会のために、わたしは言葉をかいていますが、一緒にやる神里くんは絵をかいています。わたしのかく言葉を、神里くんが絵に翻訳しています。神里くんのかく絵を、わたしが言葉に翻…