「ぼろ切」中野重治

こんな古い麻の葉模様なんぞは棄ててしまおう
もうおれには
こんな古いぼろ切を大事にしてしまつておくのが恥しくなつて来た
ぽろぽと一しよにして
三国の浜へ持つて行つてさつぱりと流して来ることだ
おれはうんと飯を食つて
それから鼾をかいて眠つてやろう
人の心のなかへ降りて行くのはもう止しだ
こんどは浮きあがる番だ
さあ浮きあがれ うかべ
このやくざな心臓にささらをかけて

(「詩集 夜明け前のさよなら」より)