京都・○○

土曜日
よく晴れて、暖かい。新宿駅から、慣れない上りの中央線で東京駅に向かうとき、黄色いリュックを背負った黒髪の女の子がかわいくて、ずっと見ていた。東京駅の新幹線乗り場の窓口はひとりを除いてみんな女子だ。駅の窓口にこうしてパキパキ仕事をこなす女子がいたり、フライトアテンダントみたいに颯爽とホームに向かっていく乗務員の男女がいたりする。駅ってもっと古風な場所だと思っていたから、なんだか目が慣れない感じ。でも、パキパキした女子に切符を受け取った気分はいい気分である。
東京駅から東海道新幹線、わたしは大漁御膳、はじーはとんかつ弁当とビール。大漁御膳は炊き込みご飯を敷いた上に、ぶりの照り焼きやあさりの佃煮や海老の酢でしめたのや、いくらがのっていておいしい。とんかつもひと切れもらって食べる。はじーはとんかつをすぐ食べ終えると、わたしの大漁御膳を時々奪っては食べる。わたしが最後に残した分も全部食べる。前夜よく寝てなく、おなかがすいていたらしい。静岡駅でみえこっち同乗、3時頃、京都着。

日曜日
つんと冷えて晴れる。これこれ、これが冬です、という感じだ。トラベラーズインを出て信号を渡るとすぐ、嘘みたいに大きな平安神宮の鳥居、その嘘みたいな赤。鳥居はくぐらずに、美術館の裏をまわって京都市動物園に入る。9時5分。
開園したばかりの動物園はしんとして、わたしたちのすぐ前に、カップルがはいっただけ。きりんが二頭、朝ごはんを食べているのを、飼育員のおじさんが見つめている。カリフォルニアアシカはずっとおへそのところだけ水の上に出して頭をぐっと下に反らせて、水の中の藻か何かを食べているようにみえる。ときどきそれをやめてひと泳ぎしたかと思うと、プールの水面はぐらぐらと揺れる。ホッキョクグマは吊りタイヤの前に座ってぼけっとしている。ここの動物たちは、上野や多摩の動物園みたいに、おいらたち動物だぞーという感じで動物らしいのではなくて、なんだかもっと人間っぽい生活やだらしなさがあるようにみえる。園内には木造の大きな民家のようなお蕎麦屋さんがあって、二面が縁側みたいに全部ガラスの張りの引き戸になっている。おくさんがその引き戸を全部あけて拭いている。何時からですか?と聞いてみると、もういいですよー、いま暖房つけますねー、と言ってくれる。おくさんは小さなお番台の向こうに回って、注文をとる。わたしは天ぷらそばを食べる。ころもがふわふわに汁を吸っておいしい。動物園で、こんなおいしいもの食べたのは初めて。外のよく見える引き戸の近くに座ると、みえこっちの肩越しに、ときどきゾウが見える。外のベンチの周りにハトが群がっているのを観察する。
休憩所の下に流れる川のたもとに、深沢七郎の小説に出てきそうな、鈴なりの柿の木。