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楽園は晴れ

火曜日、みんなでわいわい、横浜トリエンナーレへ。一日中、すっかりぽかんと晴れている。午前十時半、根岸駅の改札を出ると正面に「三溪園」の看板あり。バスに乗って、かわった苗字の家の建ち並ぶ小路を「暑いねー」「おなかへったー」「ソフトクリーム食べたい」と口ぐちに言いながら歩いてゆくと、幻のように完璧な佇まいのお土産やさんが現れ、ちゃーんとソフトクリームを売っているのだった。そのお天気の下のお土産やさんの完璧さはちょっとすごくて、店の前にはゴールデンレトリバーが寝そべり、絶妙に愛想のないおばあちゃんが差し出したおせんべを、いつのまにか私たち全員、ほおばっている。小窓の向こうにはアメション柄の猫がいて、その猫が去ったと思ったら、毛並みの整った黒猫が入れ替わって夢中で何かを食べだし、モッチーはその猫と同じ夢中さで彼らを写メし続けているのだった。
はじー以外みんな、ソフトクリームを買って、半分くらいたべたソフトクリームを突きだして、はじーに記念写真を撮ってもらう。わたしは「さくら味」を買う。薄いピンクで、さくらの葉っぱをこまかく砕いたみたいなうすぐらい緑いろが入っていて、さくらもちみたいな味だ。はじー「ふつうのにしろよ」と言いながらたべる。たべながら、そのお土産やさんの角のすぐ先に見えた三溪園の入口に、みんなでてくてく、吸いこまれた。
大きな池のまんなかに、これもトリエンナーレの演出かという風情で、木の小舟が一艘、杭に繋いである。池のまえの藤棚にも、草のなかにも木のこずえにも立派な蜘蛛の巣がはり、日当たりのよいそこここで猫がたむろし、わたしたちは突きだした木の幹の先に刻印された小熊の横顔をみつけたりして、三溪園のなかを進んでゆく。橋の上で立ちどまると寄ってくる大勢の鯉に、ときどき亀がまみれている。亀の顔の側面に、刺すような赤が入っている。
あずまやの下にはいると、ささやくような低い声が、天井から降ってくる。茅葺き屋根の大きな家の座敷で、男女がぴったり抱き合い、キスしながら、永遠のような速度で静かに延々とおどっている。その家の奥ではいろりに火が燃えてもくもくと煙がながれ、急な階段の途中にはビームのような陽光がさして、わたしはまりちゃんとそのビームを顔にあてて遊んだ。小川の上に設置された機械から人工の霧が吹き出て、辺りはしろいもやに包まれ、蛍光ピンクのランプがちかちか点灯し、もやのかかった水辺の葉っぱに陽のさしてきらきらひかるそのひかり。重要文化財のお堂のなかはしんと冷たく、その冷たさを消さないほどの大きさの小さなランプが糸に吊るされて、音もなく月の速度をおどった。誰かの出展の取りやめになった場所で、仮設テントの下に転がった竹を枕に、猫が寝ている。はじーはぐるとうしろからまわってその猫に近づいていって反対側から寝転がったかとおもうと、同じ竹を枕にして猫の一味となる。