文具・江戸っ子

昨日の夜から風邪気味・ぼんやりした頭で出社。
昼、スタバで武田百合子さんの「犬が星見た ロシア旅行」を少しよみ、会社に戻る前に寄り道した文具店で、ペンとノートを買った。ペンはPILOTのHI-TEC-Cのブルーグレー、ノートはマルマンの方眼。ここはおじいさんがひとりでやっている小さな文具店で、わたしは前から入ってみたかったのだった。こんな文具店然とした文具店が好きなのに、東京ではなかなか見つけられない。特に新しい町並みには入れてもらえないようで、大崎ゲートシティの周辺で探したときなんて壊滅的だった。
「いらっしゃいませ」という、第一声の良さにもう感動しながら、六畳半くらいの店のなかで買うものをえらんで、電話口で「インクが届きました」と喋っている彼の声を聞き、電話が終わるのをみはからって、レジに持っていった。「方眼。こちらのノートは方眼ですが、よろしいですか?」とおじいさんはシャキっと言う。わたしはりんちゃん(「僕と彼女と彼女の生きる道」の女の子)の声で、「ハイ!」といい返事をする。「方眼はいいけど高いんだよね、お客さんにたっけぇなーって言われるの」「マルマンって会社は一度だめになっちゃったんだけど、間にコクヨが入ってね」と、わたしの買ったノートやマルマンの説明をしてくれる。こんなにいい声が文具店の奥に潜んでいることを知るひとが、どれだけいるだろう。みると、おじいさんの背後の壁の上のほうに、古ぼけたコクヨの看板が堂々と貼ってある。ノート一冊とペン一本で682円の買いものだから、確かに贅沢である。でもきちんとした文具店があることが嬉しいので、わたしは「どうも・また来ます」といって店を出た。

犬が星見た―ロシア旅行 (1979年)

犬が星見た―ロシア旅行 (1979年)