ハバナ日記(4)

Alamarからバスで、ケティのママの住むLautonへ。ディウスメルも一緒。ママとママの彼氏に挨拶する。アパートの二階にあるママの部屋のベランダからは、ハバナの中心街とその向こうの海が見える。隣の家からレゲトンが聞こえてくる。朝ごはんをいただいて、みんながのんびりした日曜の気分を味わうなか、ひとりそそくさと絵本の原稿を仕上げさせてもらう。壁掛けテレビでは録画の「GOT TALENT」のスペイン語版を流していて、ママがときどき笑っている。昼ごはんもいただき、今度はケティがディウスメルの助けを借りながらブックフェアのプレゼン資料をつくる間、リビングのソファベッドですこし昼寝。ここでもいい風が吹いている。夕方、近くの公園でネット回線を拾って、業務メールをいくつかやっつける。ケティが自分の携帯のメールを見て嬉しそうに「サヤカ、今夜はちゃんとパーティーがあるよ!」と言う。

 中心街へ向かうバスを、ディウスメルは途中で下りて家族のいる家に帰り、ケティは人に道を何度も尋ねながら私を会場まで連れていった。見ず知らずの怪しいお兄さんが声をかけてきたと思ったら、若手作家ミーティングの参加者だよ!と言うのでホッとする。道を渡って住宅ふうのビルに入り、屋上まで階段であがると、見覚えのある面々がギターを囲んで歌ったり踊ったりしていた。テーブルにはラムの大きなボトルがドンっと置いてあってみんなストレートでぺろぺろ飲んでいる。ビールなんかないのだ、ラムなのだ。クールだ。ちびちびそれを舐めていると、キューバ人の黒人の男の子、ヤンシーが話しかけてくれる。ぜんぶスペイン語なのに理解できる。ゆーーーっくり話してくれるのだ。アダはいつのまにか見つけた男と仲よさそうにいちゃいちゃしている。その男オスマイルは確かに好青年で、それでキューバはどう?と私に、ざっくりした質問。ソーミュージカルでソーエモーショナルだよ、オールディフェレントフロムジャパンだよ、と私もざっくり答える。メキシコからの素敵な人びと、おっとりしてかわいらしいアドリアナ、ぽっちゃりゲイの愉快なチェぺ、名前の由来は緑の王冠だと教えてくれたほっそりのステファニーと知りあう。メキシコのみんなのノリは、ほっぺで挨拶するカリブの超近距離コミュニケーションの世界に比べてとても控えめで、ふしぎと日本人の友だちノリと共通するものがあって、すぐに仲良くなってしまう。アメリカを挟んで、私たちは文化をシェアしてる。みんなでひとしきりトランプに悪態をついて悲しくなってから、何やってんの私たち、政治なんてやめよやめよ、詩が必要なんだったわーと我に返る。チリのスキンヘッドの女性作家パメラが、私の朗読がすごくよかったと言ってくれる。彼女は経血を聖なる血と表現するような人で、本の題は「月の狂気」で、情熱的で深くて強いものを愛している。私は深さと柔らかさの共存は無理だと思っていたけどあなたはそれをやっていた、深くて柔らかくてセクシーだった、私たちはすごく違うけど、同じことを表現していると言ってくれた。すごく嬉しかった。いくらでも話していられて、パーティーはあっという間におひらき。みんなでマレコンに移動してもう少し喋る。エミリオに会うと、パウラは風邪をひいて寝てると言う。歩きながら好きな監督を3人あげるゲームをやった。エミリオはタルコフスキーとトリアーを挙げて、私は北野武アンゲロプロス。もうひとりがどうしても思いつかなかった。後になって、あっエドワードヤンだ!と思った。

私の面倒を見なければならないケティがお疲れ気味なので、名残惜しい気持ちでマレコンを後にした。遅すぎてAlamarへ帰るのは危険だというので、Nに来てもらって、ハバナ大学の近くの空き部屋を貸してもらう。ぶよぶよのスプリングのダブルベッドでケティと眠った。

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