グアヤキル国際詩祭(1)

 7月10日。出発。
 羽田発ロサンゼルス行きの便では高校生の研修旅行団体、ロサンゼルス発ニューヨーク行きではユダヤ人の新社会人青年と在NY台湾人のおばちゃん、ニューヨーク発グアヤキル行きではPortoviejoという街に帰るスペイン語の先生アンジェと、隣り合わせた。
 アメリカでの乗り継ぎは、この国の脅え、Freaking outが目に見えるかのよう。寛大な心で国境を跨ごうとしながら、国の中の人の脅えに付き合わなければならないこちらは、ほんとうに疲れてしまう。しかも、30時間近い移動で判断力が鈍ったか、JFKではゲートに向かおうとしてEXITに出てしまった。急いで走って戻って、またぞろセキュリティチェックを受けるはめになる。これにはほんとうにへとへとになった。飛行機を降りるときには、自分がどの棚にリュックを収納したのかも思いだせないくらいの疲れ。
 ニューヨーク行きの便は、まるでニューヨークの人は全員知り合いみたいに、誰もかれもが隣どうしの人とにこやかにお話ししている。それはもしかしたら、あのFreaking outの裏返しなのかもしれない。それでも基本的にフレンドリーであろうとする人々に混じるのは、気が楽。ビジネスクラスの席には、映画「ペット」に出てきそうな、頭のよさそうな黒いテリアを連れた、細身の丸眼鏡をかけてプラチナ色に髪を染めた端正な姿のおじさまが座っている。完成されたゲイのかたというのは、ほんとうにうつくしい。
 グアヤキル行きの便は、ほとんどがエクアドルに帰る人。かなり年とって足のわるい人や、キラキラの緑のスパンコール付き民族衣装を着た、骨格のしっかりした女性たちもいる。隣に座ったアンジェは、最初に自己紹介すると自分の家族の写真をスマホで見せてくれて、私がパートナーと一緒に住んでいるというと、結婚はどうするのか?とすぐに確認して、乱気流ですこし飛行機が揺れるたびにとてもこわがって、何度もお祈りを唱えた。それから、Our god is Jesus(へスース). と言った。飛行機が無事に着いたときにも、手をあわせて神様に感謝した。

 グアヤキル空港では早朝にもかかわらずたくさんの人が出迎え口に集まっていて、どうやら歌手が降りてくるのを待っていたらしい。あとで聞いたら、エクアドルの人はSo into musicなんだ、と通訳のエドガーが教えてくれた。

 東京より気温はちょっとだけ低く、湿度はちょっとだけ高い。食べものを心配していたけど、メキシカンにかなり近いらしく、セビッチェもあるというので、狂喜(まだ食べていない)。ランチはあまり食べられなかったけど、それでもチキンソテーにごはんにじゃがいもスープにバナナ揚げ、おいしかった。疲れがとれたら、もっとたくさん食べられるだろう。
 午後、ほかのメンバーや詩祭のまとめ役アウグストと合流して、イグアナ公園までお散歩。私はみんなと話すたびに、No hablo español.(スペイン語話せません。)とか、yo estudio español por tres meses.(スペイン語3ヶ月勉強してます)とか言ってみる。みんな、おっけーおっけー、って感じで対応してくれる。みんなはもうCervesa(ビール)を行きがけにスーパーで買って、飲みながら歩いている。私はまだ、Despues. あとで。Agua agua agua, Veinta cinco, (みずーみずーみずー25セントー)と叫びながら歩きまわっている、水売りのお兄ちゃんがときどき来る。

 ホテルから歩いて15分くらいのところに、イグアナ公園。イグアナだけではなくて、鳩(paroma)とリスとミドリガメもいる。葉をたくさん茂らせた巨木がそこここにあって、その1本は葉っぱみたいに鳩が乗って休んでいる。鳩だけではなくて、イグアナも休んでいる。
 イグアナは木にどんどん登る。ヤシの木の、一本道の幹を、上へ上へと登っていって、下へ降りてくるイグアナとすれ違っている。また別の木は、幹の表面がイグアナの背中と相似形になっている。とさかのついてるのとついてないのがいる。ときどき、誰かの話を聞いてるみたいに、とさかを揺らしてうんうんうんうんと頷く。男と女はどうやって見分けるのか聞いたら、アウグストに「男っぽいのが男だ」と言われる。なんだ、猫と同じか、と私、思う。ひとまわり小さくて緑の濃いのが子どもなんだそうだ。大きいのは、手足が黄色くなって全体に色が褪せている。人間と同じで、年をとってくると青い色素が減退して、黄色い色素が浮かんでくるのかな、と私、思う。