きれいな晴れの日

 5月8日、月曜日。ゴールデンウィーク中は観光客や帰省してきた人たちで賑わっていた鵠沼海岸周辺は、すっかりいつもの落ちつきを取り戻したように見える。連休のあいだ、木曜も金曜も土曜も日曜も、ずーっと晴れていた。今日もきれいに晴れている。きれいな晴れ、と言うとき、私の脳裏には英語のsereneが浮かんでいる。同時に、ヘミングウェイの小説のタイトル "A clean, well-lighted place" も思いだす。この小説の邦題は『清潔で、とても明るいところ』と訳されていて、そのほうが正確なのだろうけれど、私は勝手に『きれいで、とても明るいところ』と呼んでいる。「きれい」と「clean」に通じるk-l-iの音が、きゅっと磨かれた白い陶器のお皿のようなイメージで結びついているのだ。
 でもsereneという言葉は、もっと広々としたきれいさを想像させる。Oxfordで引いてみると、Calm, peaceful, and untroubled; tranquil.とある。untroubled...何の心配もなく、さっぱりして、清浄で、静かな感じ。やっぱり、Sのもつさわやかな清々しさのイメージで結びついている。
 きれいな晴れ、と思ったのには、ほかにも理由があるかもしれない。連休中大勢の人で賑わっていた海岸にひとけがなくなり、人間たちの食べものを狙っていたトンビやカラスもいなくなって、きゅーっとクロスで拭いたような快晴の青空。sereneとcleanの語感が混じり合って、わたしは「きれいな晴れ」を聞いているのか見ているのか、わからなくなってくる。

 7月のエクアドル国際詩祭に持って行くため、中央大学の南映子先生と、メキシコの小説家ヒメーナ・エチェニケ・サンチェスさんに共同でスペイン語訳していただいた自作の詩のなかから、"Terroristas"の前半をノートに書き写した。「侵入者は清潔です/はだかんぼですからね」という箇所は、los intrusos están limpios / pues están desnuditos と訳されている。その何行か前に「あまりお風呂に入らないふたりは」というくだりがあって、お風呂に入っていないのにお風呂上がりのような清潔感のある男女を想像することができたら面白いと思って、呼応させたものだ。
 スペイン語で「きれい=清潔な」はlimpio,limpia。キュキュッとした清潔感をイメージするとき、人はL音と破裂音を組み合わせたくなるのだろうか。
 スペイン語で「晴れ」はdespejado, despejada。語源はまだ調べてないけれど、ぜんぜん晴れっぽくない。

Yo vivo cerca de mar.
Hoy miro el cielo limpio. Un dia muy despejado.