土曜日、晴れ、大野山

山北駅ー大野山山頂ー丹沢湖 落合館〕

土曜日、午前10時半をまわる頃、山北駅から歩き始め。山北駅には若いツバメがいっぱい飛んでいる。のどの赤が薄いので、若いと分かる。翼に心配な斑点のある個体が一羽。駅舎の梁に、巣が無数にある。駅の近くの商工会議所の駐車場の天井とか、個人商店や民家の軒先にも無数にある。

何日か前から続いている晴れで空気は乾き、蛭なんていそうもない。川が流れているのかなと思って覗きこんだ、低く続く谷のようなところを、電車の線路が走っている。その上にかかった橋を渡って、車の多い広い道路も渡って、頭上高くを突っ切っている高速道路をくぐって、山の入り口へ向かった。

ほんとうの山道に入るまで、舗装された細い道路を、たまに車とすれ違いながら歩いていった。濃緑の山を背後にいただいた小学校がある。廃校になっているのか、校庭には小学校とは関係のなさそうなトラックが停まっている。歩いている人はいない。山道にさしかかったところで、朝から登ってもう降りてくる人たちとすれ違った。

正月の沼津アルプス以来の山で、冬から体力づくりを全然していなかった私は9合目あたりでかなりしんどくなってきて、林が切れて牧場の草原が広がる最後の登りの階段を、手すりにしがみついて、歌をつくって歌いながら歩いた。アナグマはー、夜行性だけどー、帽子があればー、昼も元気さー、とか、そんな歌。

山頂はもう休んでいる人が何組もいて、いつも思うけど山道はあんなに誰もいないみたいに静かなのに山頂にはこんなに人がいるってことがふしぎだ。ご飯をガスバーナーで炊いて、サンマの蒲焼の缶詰の卵とじオンザライスを食べた。一羽のスズメが、ヒトの昼ごはんのおこぼれを狙って回っている一羽のカラスに対して、ぴーぎゃーと不服を申し立てている。はじーは山頂で牛乳を飲みたいと言っていたのに、絞りたて牛乳を飲めるような場所はなくて、ひっそりショックを受けている。牛の放牧をしているはずの見渡す限りの草原に牛は一頭も見えなかった。でも、湖に向かって下りの道を歩き出すと、別の角度から見た山際に牛のシルエットが見えた。

山頂から丹沢湖に向かう道は人がほとんど歩いていないらしく、去年の落ち葉がたくさん積もって滑りやすい、難儀な道だった。どちらへ進むのかパッとは分からなくなる、伐木の点在する黒い斜面もあったし、行けば行くほど急な登り下りが増えて、最後には足の爪が痛かった(前日に爪を切るのを忘れていたこともある)。

もうあと少しで湖に着くというとき、歩いている道の前方を、キョーンと鹿が跳んで渡った。アッと思っているうちに、最初のより少し小さい鹿がキョーンキョーンと続けて二匹、同じようにして渡った。ついに山で、鹿に会った。

明るいうちに落合館に着いてすぐお風呂に入った。檜の香りの湯気がお風呂場に充満して、フレスコ画の天使か何か出てきそうな西日が丹沢湖の向こうから差しこんでいた。

 

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