ベルリン、ローマ、ヘルシンキ(つまりは、熊と、狼と、熊)

去年の秋にベルリンとローマとヘルシンキにいってから、ずっと、ずっと、どこからこの10日間の長い旅について書けばいいのか、書こうか、書くのか、私は、書きたいのか?うじうじと迷っていた。

外国を旅行するのは、とてもひさしぶりのことだった。外国を旅行するのは、山に登るのとは違った。でもそれは、山に登るよりも複雑だとか、高度だとか、そういうことではぜんぜんなくて、ひとことでいうと、もし山に登ることが自然に曝されにいくことだとしたら、外国を旅行するのは、自然に対する人間の態度に曝されにいくことだった。

私はもう、どうしてもベルリンに行ってみたかった。アートのまち、セクシーなまち、大人のまち(らしい)、というので。それから、もとこさんに会いに行きたかった。もとこさんは私の友達で、ダンサーで、何年もベルリンに住んでいて、それからローマ人のミケレという男の子と結婚して、いまはローマに住んでいた。私はまず、この旅を、はじーと行くことに決めた。そして、全力で調べたなかでいちばん安い飛行機のチケットをとったら、経由地のヘルシンキで次の飛行機を17時間待つことがわかった。それで私たちは、ヘルシンキも覗いてみることにした。

ローマには狼が、ベルリンには熊が、ヘルシンキにも熊がいた。ローマの狼はふるい建物の石壁に彫られていて、双子のロムルスとレムスにおっぱいを吸われているすがただった。ベルリンの熊は、Uバーン駅のアーケードを通るたびにみかけた。ちょっと間の抜けた仁王のように立ち、いろんな色に塗られていた(Berlinという街の名前にBearが由来していることは、帰ってきてから知った)。ヘルシンキの熊は私の膝くらいの身長の石像で、空港のまわりに点々と据わっていた。

ヘルシンキでは鮭を、ローマでは山羊を食べた。ベルリンではビールを飲んでばかりいた。どの都市でもチーズをたらふく食べた。ローマの山羊は、あぶらをこれでもかとジャガイモに吸わせ、ハーブをめいっぱい詰めこんでかりかりに焼きあげられていて、草いきれと血のたぎるような味がした。動物の肉、哺乳類の肉を食べるというのは、こういう激しいことなんだ。私は美味しさにくらくらした。

ヘルシンキには港があり、ローマにはオスティアという海辺の町があった。ベルリンにはお行儀のよさそうな川が流れ、街じゅうに大きな木がはえていた。大きな木の並木道を、大きな犬を連れた大きな人が歩いていた。電車にも大きな犬が乗っていて、当然のようにほかの乗客とアイコンタクトし、頭の上をまたいでいく者にはあからさまな不快感を示して、睨みつけた。オスティアの犬は痩せていて、遠くからこちらを見た。

ヘルシンキにはいろんな種類のかもめがいた。ベルリン中央駅の近くのケバブの屋台で昼食を食べていると、テーブルにホシムクドリがきて、私の手から胡瓜をついばんだ。あんなに近くで野生の鳥を見たのは初めてだった。ローマにはアフリカ大陸から渡ってくるというエメラルドグリーンの鳥がいて、もとこさんとミケレの住むアパートのすぐそばの並木に宿り、夜が明ける前から騒々しく鳴いた。

(続く)