「静かに狂う夜」それから「穴熊みたいな顔をした夜明け」

土曜日夕方、電車を乗り継ぎ、国分寺にあるGieeというバーへ出かけた。
地下に続く階段を降りていってバーの入り口をはいると、ママであるミワさんが何かフライパンで炒めていて、ハセベタカシさんがエレキベースのセッティングをしていて、長谷川友紀さんが絵を壁にかけていて、カニエ・ナハさんと暁方ミセイさんが、隅でリハーサルを重ねていた。長谷部裕嗣さんが、わたしをバーのママに紹介してくれた。しばらくするとブリングルさんが来た、アランさんが楽器の大荷物で来た、風邪をひきひき小野絵里華さんが来た。
会場はとても混みあった。パフォーマンスの時間が始まると、長谷部裕嗣さんはアメリカの煙草の広告に出てくるような帽子を素敵にかぶって、ウェスタン映画に出てくる人のように歌った。ブリングルさんは封筒から一枚ずつ紙を出して、こどもの成績表を隅々まで検査するみたいに目を光らせて読んでいった。カニエさんと暁方さんは双子のように同じえんじのカーディガンを羽織って、パフォーマンスの間じゅう、お互いのすべてをくるくる入れ替わらせながら読んだ=踊った。小野絵里華さんの声はパリンパリンと一定のリズムで薄氷を踏みつづけるみたいにかぼそく一心不乱だった。わたしは何回もトイレに行った。朗読しているうちに、アランさんのアコーディオンの呼吸音や、ベースの鈍い低い音や、自分の声に落ちつかされて、だんだん身体が湿気ていった。愉快な夜だった。

そのまさに次の夜(that very next night)、今度は渋谷にあるコアラというバーへ行った。もう何ヶ月も音楽を全身で浴びていなかった、それはとてもよくないことだよと、浴びながら深く思い至った。終わりぎわにKEITAちゃんフィッシュマンズをかけてくれて、誰かが大サービスで宇多田ヒカルの「Goodbye Happiness」までかけてくれて、みんなフロアに来て踊った。
カウンターの周りでは外国人の集団が誰かの誕生日を祝っていて、中国系の女子がコアラのコアラというオリジナルカクテルを飲みたいと一所懸命英語で注文していたので、通訳してあげた。女子は、友達が飲んでたからわたしも飲みたくて、という。でも、コアラにはコアラというカクテルはない。代わりに店長が、桜リキュールのお酒を作ってくれた。
「静かに狂う夜」に来てくれたDJたちとたくさん話した。KEITAちゃんと瞑想について話した。「静かに狂う夜」でいただいた出演料(こういうお金を、わたしは歓喜をこめて、アワゼニと呼んでいる)で、たくさんお酒を飲んで、そのまま帰らないで高円寺までなこしとてらちゃんについていって、いつも高円寺に帰るみんなが寄るという憧れの「ざぼん」のラーメンを食べて、タクシーで帰ってくるという贅沢をした。高円寺で、もといとのんのんの散歩しているのに会った。ざぼんでわたしはてらちゃんに「音楽は、要るね。」と言った。てらちゃんは「うん、俺もそう思う。」と言った。

きょう、絵里華ちゃんのブログ(「詩人は死んだ魚の目をもって」)を読んでいたら「直観的瞬間的に行っちゃって、そんでなんでそこにいるのか自分で分からないのが詩人。分かるか分からないけど、分かろうと思考と論理で埋めてこうと必死なのが哲学者。」とあって、そうだーそうだーと思い、もっとさかのぼって読んでいったら「穴熊みたいな顔をした夜明け」という一行にバッタリ遭遇して、ふるえた。

「静かに狂う夜」の写真を載せようと思っていたけど、写真には声が写っていないのだった。


“静かに狂う夜”第二夜「詩人と演奏家」
4月16日(土)19時開場 @国分寺giee
FOLIE IN SILENCE "Poets and Players"
出演:
長谷部裕嗣
ブリングル
カニエ・ナハ(サポート:暁方ミセイ)
小野絵里華
大崎清夏
Alan Patton(アコーディオン)
ハセベタカシ(ベース)