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「光りの速度」

走る、
走るものはいろいろある
誰でも走る
誰でも走れる
歩くことを知らなくても走れる
足がなくても走れる(たとえば、蛇)
鳩は飛ぶことがつまらないときに走る
走るものは、数かぎりなくある、

走る、
走ると速くなる
速くなっているものを止めるのは難しい
速くなっているものを無理に止めると
大事故になるか
大発見になるか
あるいはその両方になるかする
速いものは、とらえがたい
 *とらえてほしいので、わざとゆっくり
  走るものもある、気味のわるいものだ
  そういうものを、走るとはいわない
走るものは
速いものだ、

走るのがきらいな子は
走らなくてもいい
走るのがすきな子が
速いのがすきな子とはかぎらない
速いのがすきな子が
誰よりも速いとはかぎらない
むしろ
走るのがきらいな子が
走りかたなんかすっかり忘れた頃
とんでもなく速くなることが
よくある
よくある、

誰かが自分よりも遅いことを
けなしてはいけないように
誰かが自分よりも速いことを
あがめてはいけない

走れと命令されても
走るなと命令されても
どちらにも
従わなくていい
ただし
走ると何かにぶつかって死ぬかもしれない
走らなくてもいつかは誰もが死ぬ
死ぬときには、ひどく速くなる
  地球上でいちばん速いのは、誰か?
  チーターでもアメリカンクォーターホースでもない
  死にながら生まれつづけるもの
  食べるのと同じ口から排泄するもの
  雨が降ると湧きでて、乾くと消えるもの
  カラハリ砂漠の植物や虫たちかもしれない
わからない
走る、

走る○○、
○○にことばを入れてみよう
あなたのすきなことば
きらいなことば
あなたの名前
そして
目を瞑って
まぶたの暗闇のなかで
それを走らせてみよう、

走る、
つまり速くなる
速くなるためには
大きなエネルギーがかかる

あなたが走らせたことばにも もう
かかっている

走る、
暗闇を走る
明るみを走る
裸足で地面をかんじながら走る
走る、
走るものはいろいろある
誰でも走る
誰でも走れる
歩くことを知らなくても走れる
歩くという漢字が書けなくても
走るという漢字を憶えることができるように

走る、
走ると速くなる
速くなっているものを止めるのは難しくない
走る、
走って追いかける
速くなっているものより
もっと速くなる、


*馬場光子さん著「走る女 歌謡の中世から」が、この詩の発端となりました。
*「ユリイカ」2010年7月号 「今月の作品」欄 佳作