黄色い詩手帖

何日かまえ、うちに帰ってポストを開けると、ベルリンにいる素子さんから、はじーと私宛てに、小包みが届いていた。
こういうことがたまにあるから、ポストを開ける役目というのは、やめられない。一日に何度もメールチェックしてしまうのと同じで、ポストの前を通り過ぎるたびに、開けたくなってしまう。でも開けてばかりいると、自分が誰かからの手紙をただのんべんだらりと待っているだけだということに気がつく。
素子さんからの小包みをあけると、さいしょに、平べったい大きな生ハムのパックが2枚、出てきた。私はひゃーと叫んではじーを呼んで、その生ハムをみせびらかした。ひとつは私の大好きなハモンセラーノだった。私が「ハモンセラーノだよっ、いつも十八番(恵比寿のスペイン料理の立呑屋)で食べてる、」といってもはじーはあやふやに、嬉しそうに、「おー」とか言う。(でもわたしたちは2パックとも、二三日のうちにぺろぺろと食べてしまった、料理に使うのはもったいないから、パックを剥いたそのままで)。
それから次に、手作りのノートが出てきた。黄色い表紙のまんなかに、厚くて小さいはっぱの形のビーズが、赤透明・水色透明・黄緑透明・赤透明・水色透明・桃色透明……と並んで、水色の糸でくくりつけられている。水色の糸はそのまま続いて、縁までざっくざっくと縫ってある。表紙の黄色い紙は繊維質でざらざらぼこぼこしていて、それをさらに段々に折ってひだを作ってある。背は黄色い藁束のような固いひもで結んである。街の道端に泊められた水色の廃車の、ボンネットや座席のなかから、ワイルドな硬そうなヨーロッパの草花がぼうぼうとはみだしているベルリンの風景写真の絵はがきに、このノートを「穴熊くんの詩手帖にして下さい」とあり、わたしは、親密な贈りものが嬉しくて、ベルリンにあるはずの素子さんの部屋、そのリビングにあるというベッドをあてにして、すぐにでもそこへ、泊まりに行きたくなってしまった。