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タカアシガニという詩人

どうしてもタカアシガニが好きだ。あいつが生きものであるということに、何かとても大きな希望をわたしは感じる。かれは水槽の右隅から左隅まで、ゆっくりと、わたしにお腹を見せつけながら、移動する。かれはあんなにたくさんの脚をもっているのに、どれ一本として、上手に繊細に使うことができない。かれの目に、かれのいちばん下についている二本の脚の先はきっと見えていない。その上の六本が見えているかだってどうもあやしい。その脚は移動しながら、カサゴの目を刺しそうにしてまたぎ、ヒラメを擬態をいいことに踏み、真っ赤なエビを蹴り、果てには水槽の左隅の岩場でやすらっている毛ガニに迫る。そして毛ガニがその脚を駆使して岩の断崖をのぼり、やっと自分の居場所を確保したようにみえたとき、タカアシガニはゆっくりと、また水槽の右隅へ移動し始めるのだ。まるで、自分が右隅から来たなんて、そんなことあるわけありません。だってそれはあくまでもこれから行く場所、目的地なのです。みなさん、さようなら。さようなら。さようなら。という具合に。タカアシガニがしてるのは移動だけだ。
不思議なのはカサゴやエビやヒラメたちだ。かれらは踏まれるまで、蹴られるまで、またがれるまでそこにとどまる。踏まれても痛くないからではない。踏まれれば痛い。ヒラメはのたうってその場所を離れる。エビは迫りくる脚を鋏で威嚇し、チョンとつまんでその一本の脚を驚かせる。ただ、かれらには——自分のからだを把握できないタカアシガニの目に比べたらあんなにきちんとした目がついてるのに——危険に先立って逃げるということがない。それほどその場所に執着があるわけでもないのに、あの鈍感な長過ぎる脚のそばから、かれらは離れない。かれらとタカアシガニとの関係が、わたしはなんとも、なんともいえず好きだ。

鴨川シーワールドにて。


I like spider crabs somehow. I have a pretty big hope in the fact that he is a living animal. He migrates in the tank from the right side to the left side slowly, showing his stomack up to me. He has so many legs and none of them he can use good and delicately. His eyes look like they can't catch his bottom legs. It's doubtful that if he can see other six.