モスチキン・移動祝祭日

K里くんが参加する演劇の企画のキックオフパーティーが千駄ヶ谷であるというので呼んでもらっていたのに、会社仕事の一日の最後の電話でけんかごしになって、つまらない気分になってしまい、気分調整のために、自分でもわかるほどふてくされた顔でモスに駆けこみ、つめたいココアと、年に一度のモスチキンを食べ、その日鞄に入れてあったヘミングウェイの「移動祝祭日」を読んでいたら、一時間ですっかり気分がよくなって、予定通りパーティーに行けたのだった。ああ、よかった。
K里くんは真っ赤なジャージに赤いサンタ帽、いつもの赤いメガネでまっかっかだった。
そのかえりみち、ふと気がつくと女優のウタさんと俳優のタケさんがうちに飲みに来ることになっていて、なんともはや、愉しい。タケさんとウタさんは、K里くんの演出した「3月の五日間」にふたりとも出演していて、ふたりともとてもいい演技していたのだった。はじーは川の暗渠の面白さがタケさんに通じたので嬉しい。コンビニで買ったチリトマトヌードルをわけわけして食べながら、朝まで喋る。わたしはいつもみたいに途中で寝てしまう、でも夢のなかにウタさんが出てきてそのウタさんはフランス語がぺらぺらということになっていて、それを起きてから話すとウタさんは「あ、フランスの話とかしてた!」という。ベランダで朝日をいっぱい浴びて、タケさんは今日バイトを休む算段をしているうちにバイトはなくて稽古だったことに気づいて、それですこし顔色が明るい。わたしもつられて会社を休みそうになって、今年最後の出勤日なのに、もう行くのやめちゃおうかな、と言ってみて、ほんとうに半分その気で、帰るふたりをぷらぷらにこにこ、広い通りまで送っていくと、タケさんはわたしの顔を見て、「あもうこれ絶対行かないよ」と何度も言う。わたしはあんまり気分がいいので、会社に行かなくてもいいけど、行ってもいいや、と心の底から思えてきて、お見送りから帰ってくるとちょうど出勤時刻だったので、昨日のことが嘘のように、ぽいっと会社に行ってくることにしたのだった。