「お引越し」相米慎二

土曜日にこの映画を観て、この映画について絶句すること丸四日。まだ眼の奥の方で、あかるい夜明けの火柱がちらちら燃えている。ありあまった愛が燃えている。怒りが燃えている。画面の中から、母親の手から、なんとか逃げようとするみたいに、少女はどんどん歩いて、走って、遠ざかって、止まっていない。そのぶん傷も負うし、雨にも降られるし、死にかけるくらい迷子になる。少女の速度は身体を無視して、どんどんどんどん魂の速度に近づいてゆく。死に向かうことと未来に向かうことが、同じことだと、少女は知らずに知っている。そして、燃えさかる火の前で、初めて立ち止まる。