自分の演技

それにしても記者会見である。記者会見をする側になるなんてもちろん初めてのことだった。でも私は映画の仕事で、いろんな製作発表記者会見とか舞台挨拶の記者席で写真を撮ったことはたくさんあって、フランス映画祭の記者会見の一列目の席でジェーン・バーキンを撮ったことを、いつもひとに自慢してしまう。生でみるバーキンはほんっっっっとに格好よくて、サルエルのジーンズの裾を細く巻いてコンバースのミドルカットの靴紐を足首で一周させて結んでいて、それはみんながやってることだけど、私もその日から速攻真似した。ブルース・ウィリス(という名前よりも先にジョン・マクレーンと思いだしてしまう)も見たし「アバター」のゾーイ・サルダナも見た。私はスチル担当だから、そのうちの誰とも、ひとことも口をきいたことはない。少しだけ距離をおいて見る映画人はみんな穏やかな、にこやかな、もしくは、エンターテインすることが大好きでオーディエンスをいつ笑わせようか虎視淡々と狙っている、…...なんていうか要はみんな、すっごくいい人たちだった。

ばかばかしいくらい当たり前のことだけど、いくら見ても、いくら生の俳優を見ても、その俳優が演じている映画のなかの人間を見たことにはならないことが、愉快だなァと思う。俳優たちは自分でいるときには、きちんと自分の演技をしている。南方熊楠の「タクト」、天から与えられた自分の演技。服装、生活、笑いかた、指の長さ、毛の生えかた。いま私が大好きな「自分の演技」をする俳優さんは、山田孝之さん。